2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「ちょっとトイレに行ってくる。」
そう言って俺は逃げるように席を立った。
待ち続ける…なんて格好いい事言っておきながら、俺は迷ってしまったのだ。そして、それが大きな過ちだったのだ。
俺は、エリの事をずっと待ち続ける自信があった…。
彼女と会うまでは…。
プロになって3年、楽団に新入団員が入ってきた。その中に、彼女はいた。
コントラバス奏者だった彼女-吉野由実-と打ち解けるまでに、時間は掛からなかった。そして、彼女から告白された。エリの事も話したうえで、それでも俺と一緒にいたいと…。
最初こそ断ったが、何度も話しているうちに、俺は迷ってしまったのだ。
「本当にエリは待ってくれているのか?」
そして俺は、迷い続けたまま、彼女の想いを受け入れてしまった。
そのまま2年が経ち、態度の変わらない俺に対して、彼女は結婚の話を持ち出してきた。けれど俺はどうしても、あのときの約束が忘れられず、その話を受け入れることができなかった。
数日後、再び彼女と会った時、彼女は原形を留めてはいなかった…。
そんなことを思い出しているうちに、俺は気分が悪くなり、食べたものをすべて吐き出してしまった。
「なにやってんだろうな、俺は…。」
最初のコメントを投稿しよう!