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小さく詠唱を始める俺。
ややあって、西の空から灰色の雲が山にかかる。
山の土が黒々と染まる。
近付く土の香。
気付けば、雨垂れが屋根に叩きつける。
俺は、ずっと念じ続ける。
雨はやがて、土砂降りに変わった。
池に水が満ち、川の流れは勢いを増しゆく。
田畑に染みた雨は、瀕死の作物に活力を与える。
暑さ続きでうだっていた郷の皆の歓声が聞こえてきた。だが、一人として俺の名を口にする者はいなかった。
二時間の雨はそのうちに止んだ。
――……これでいいん…だよ…な……んぁ……
集中を解いた俺を、眩暈の渦が襲った。
そして、俺は背中に響く畳の感触を覚え、意識を闇に放り投げた。
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