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――……静かだ。これが死というものか。
俺はうっすらと残った意識でそう思っていた。否、意識のようなまやかし、と言った方が正しいのかもしれない。死んだ人間に意識があるのかどうかなど、過去に死んだ経験のない俺に分かる訳がないのだから。
――それにしても、無駄な一生だった。俺はこれまでの17年間、一体何を残してこられたというのか。
追憶の中、俺はたった一つ過去に残した忌まわしき記憶を思い浮かべた。
――結局は、二人を守れず死なせただけじゃないか。
もし死んだ人間でも感情を持つことが出来る、というのならば、今の俺はきっと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている事だろう。さもなくば、自分に対する嘲笑であろうか。いずれにしても、いい表情と言えない事だけは確かである。
――宗教を持っている人間ならば、ここから先に地獄の沙汰でも待っているんだろうが、生憎と俺は無宗教者だ。このまま塵のように虚無に浮かんでいるだけが丁度いいのかもな。
半ば投げやりなその思いを抱きつつ、俺は諦めとともに意識を手放そうとした。
その時だった。
『まだ死んじゃ駄目!』
ふと、耳に懐かしい声が聞こえてきた。
――……!
そう、その声は、俺が最も大切だと思っている、あの少女のものであった。
――お…お前……まさ…か……!?
俺は目を開けてその姿を見ようとした。すぐ傍に彼女が立っているような気がしたからだ。しかし、目は開かない。無理矢理手で瞼を抉じ開けようとも思ったが、その手すらピクリとも動かなかった。
――……畜生、これが虚無の死者が受ける報いだというのか? あんまりだ。せめて……せめてこの身だけでも動かさせてくれ!
痛切な願いだった。ここまで自分の為に願った事など過去にはなかった。脳髄から心臓まで、身体の芯にきりきりと締め付けるような苦痛が走る程に俺は願った。
そして、次の瞬間、俺は急激な浮遊感を覚えた。身体が宙に引き上げられるような感覚とともに、俺は瞼の向こうに日の光を感じた。
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