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俺には既に親はない。幼い頃に二人とも死んでしまっているのだ。今となっては顔も浮かんできやしない。
学校も行った事がない。というのも父が学術書を大量に集めていた為に、暇潰しにそれら全てを頭に入れてしまったからである。実技の方は一人暮らしをしていれば否が応にも身についてしまった。
但し、だ。俺にだって友はいた。それも家族のように親密だった二人姉妹が。彼女達も親はなく、俺と一緒に暮らしていた。
姉の方は俺と同い年で、優しく清楚で、かつしっかり者の撫子。対して妹の方は快活で悪戯好き、それでいて負けず嫌いの頑張り屋だった。
山奥の森の中、そんな辺鄙な地に俺達は三人で住んでいた。他人への興味などもとより薄くも持っていなかった俺だが、この二人だけは例外だった。共にいるだけで毎日が楽しく、飽きる事もなかった。
ある時、俺は姉の方に奇妙な感覚を抱いた。僅かだが執着にも似たその感覚。安堵と焦燥を併せ持つそれは、俺の心に絹糸の枷を括り付けた。
俺は長いことその感覚の正体を知らずにいた。妹は感付いていたのか、時折俺をからかいの先端で撫でるように扱った。
あの時の俺は勘が鈍かった。もっと早く気付くべきだったかもしれない。だが人生はそう甘くない。若造の俺は、この時初めて気付かされた。
……それが恋だと気付いたのは、二人の葬儀の席だったのだから。
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