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あの真冬の夜、俺は地下書庫にいた。父の蔵書には魔術関連の研究書が多く、夜な夜なそれを片目に独り訓練をしていたのだ。姉妹はその頃きっと熟睡していただろう。
その頃、俺達の住む東北の若知町は記録的な豪雪に見舞われていた。住居を構える霧ヶ森は山に面していたが、その山が突如積もりに積もった雪の重みに耐えかねて雪崩を起こしたのだ。
窓もないその部屋にいた俺は雪崩の姿も音も気付けず、巨大な地響きに漸く異変を知覚した頃には、既に雪が家を呑み込み、書庫の戸も鎖された。俺は閉じ込められてしまったのだ。
まだ未熟だった俺には脱出するだけの技もなく、一晩冷たい石の床を火で暖めながら雑魚寝で過ごした。その間、二人がどうか無事であるように、脅威から逃れられているように、と必死に祈っていた。
夜が明けた頃、扉の方が勝手に開いた。誰か来たのか、と一睡も出来なかった俺が目を向けると、そこには海老茶の和服を着た少年が立っていた。
「……大丈夫か?」
少年が尋ねてきた。どうやら俺は助けられたらしい。
「どうにか……それより、外は一体どうなっているんだ?」
少年に促されて階段を昇る。いつもならば玄関のあるはずだったそこは、雪に潰れた木材の残骸が山のようにあった。
――……何て事だ。
あまりの被害に絶句する俺だったが、すぐに我に返った。まだ二人がいるじゃないか。
「……なあ、俺の他に二人、ここには人がいるはずなんだが?」
「……二人?」
「ああ。同居している姉妹なんだが……」
その言葉に、奴は表情を曇らせた。
「……まさかとは思うが……」
それだけ言い、消極的な視線を俺の後ろに向けた。その姿に、卒然脊椎の凍るような感覚が走った。見てはいけない、と本能が告げるが、それをも振り切って振り返る。
そこには、互いを抱えるような格好のまま雪のように冷たく転がる二人がいたのだった。
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