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目の前から瞬間的に遠退く色彩。崩れるように跪いた俺の脚を、雪に紛れた木っ端が刺す。痛みは感じなかった。否、そんな事よりも辛い痛みが心臓を押し潰さんとしていた。
「信じたくないかもしれないが、これも現実だ」
「……ああ」
分かってはいる。だが、実感がなかった。まるであまりにも現実に似せ過ぎた虚構の物語に投げ込まれたかのようだ。
現実を否定したところであの二人が帰ってくるはずもない。だが俺は否定せざるをえなかった。意識する、しない、という問題では最早なく、唯それ以外の選択肢は手元になかったのだから。
「今更悔やんだところで仕方がないだろう?」
――否、そうじゃない。
「天災を止める力なんてあるはずもないんだ」
――違う、どうにかできたはずだ。
「思い詰めたところでお前に科せられる責任なんてないさ」
――実力さえあれば助けられたかもしれない。なのに俺は実力がないばかりに二人を殺してしまったんだ。
そんな俺の横を素通りし、二人の遺体の傍に近寄る男。
「……俺は通りすがりの神主でしかないが、せめてこの二人の弔いだけはさせてくれ」
「……ああ……」
男は瓦礫を組んで手早く棺を組む。俺も覚束ない手足の動きで二人をその棺に納めた。神主が袂から白扇二本を取り出すと、二人の胸元に広げて置いた。
「この二人に身寄りはあるのか?」
「……否、二人とも孤児だ」
「なら、この場で弔うとしよう」
と言うと、二人の棺に蓋をした。
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