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その後、奴が祭詞を述べる横で、俺は二人と伴にいた日々を思い出していた。二人とも俺からしたら実の妹のようなものであった。そればかりか妹の方は親友のようだった。そして、姉の方は……
「――二人とも、未練だらけで死んでしまった事だろう。初対面の俺が言えた義理でもないが、出来る事ならこの男、んん――」
「……瀬堀黎音だ」
「――ああ、この瀬堀の事を見守っていてくれ」
その時になって、漸く俺が姉の方に抱いていた感情の正体を悟ったのだ。
「さて、勘なんだが、お前は魔法使いだよな?」
「……それがどうした?」
「これだけ忙しなく弔っておいて勝手かもしれないが、二人を眠らせてやってくれ」
「……ああ。だがどうすれば……?」
すると神主は俺の目を睨んだ。
「心に思うようにやるんだ。間違う事はない」
俺は半信半疑のまま、しかし彼の言う通り、勘で呪文を唱える事とした。不思議な事に、俺の脳内には今迄に知るはずもなかった文がふっと浮かんでいた。それを一心に唱える俺。
いつしか棺を光が包んでいた。その光は俺をも巻き込んで広がる。目に飛び込むは、ただただ白い世界。雪に晒されていたはずだが、奇妙に暖かい心地よさがその光にはあった。
「もういい頃だ」
神主の言葉通り、俺の唱えた詞も終わりを迎えた。その瞬間、光は俺に吸い込まれるようにして消えていた。同時に肌を刺す寒さを思い出し、視点を戻してみれば、棺は最早そこにはなかった。
「今の光があの二人の遺志だ」
男は言う。
「……とても心地のいい光だった」
「なら、二人はお前を恨んでなんかいないさ。あまり自分を責めるなよ」
見透かしたかのような台詞を吐くと、神主は踵を返し、森の外へと歩みだした。だが家の残骸から一歩出たところで足を止め、独り言のように呟いた。
「ああ、それともう一つ。もし何かあれば、森の入口に神社がある。俺はそこにいるから、遠慮なく来ていいぜ。若知神社の中村伶人、と覚えてくれよ」
そして再び歩みを進め、程なくその姿は木々の中に消え去ったのだった。
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