天国への手紙

2/7
前へ
/9ページ
次へ
僕はロボット しがないロボット 聞こえてくるのは歯音だけ。 流れてゆくのは油だけ。 いつものように蛇口を捻り、 いつものように花に水を遣る。 それが、僕の与えられた日課。 同じ事を繰り返す。 繰り返す。 そのはずだった。 「君は何をしているの?」 突然の問い掛け。 声の主に目線を合わせる。 目線の先には小さな女の子。 質問の答えを待ち受けるようにこちらを見ている。 『花に水を与えています。』 僕は素直に答えた。 「他には何をやってるの?」 女の子は再び質問をしてきた。 『花に水を与えるだけです。』 僕は素直に答えた。 「これからも?」 矢継ぎ早に彼女は質問する。 『これからもですね。』 僕は素直に答えた。 「…つまんない。」 そういって彼女は去っていった。 僕は気に掛けることもなく花に水を遣った。 そう、何事もなく。 次の日、いつものように花に水を与えていると、 「…こんにちわ。」 彼女がまた現われた。 『こんにちわ。』 僕は何気なく挨拶を返す。 「…ここで本を読んでてもいいかな?」 彼女は両手いっぱいにその本を抱え、恥ずかしそうに上目遣いで訊ねた。 『もちろん構いませんよ。』僕の返答に対し彼女は笑顔で応え、花壇の側のベンチに腰掛けた。 そして、そのまましばらく本を楽しんだ。 僕はというと相変わらず作業を続けた。 夕方頃になると、彼女は本を閉じ、 「もう行くね…。また来てもいい?」 と上目遣いに訊ねてきた。 もちろん私は、 『いつでも来てください。』 と答えた。 すると、彼女は笑顔で応え、帰り道へと走っていった。 次の日も彼女は来て、束の間の読書を楽しんでいった。 次の日も。次の日も。 ふとある日、僕の中に新しい日課が生まれていたことに気付いた。 彼女が側にいてくれること。 水を与える以外に初めて出来たものだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加