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ずっと待っていた。
あの日あなたが連れ去られてからというもの、わたしの世界は砂のように味気なく、乾燥し、重く纏わりついていた。
あなたがわたしの為に建ててくれた帽子屋をひとりで切り盛りした。
みなが口々に慰めの言葉をくれたけど、何ひとつわたしの中には残らなかった。
ただ、あなたがいない
それだけが真実で、絶対の事実だった。
あれから何度あなたの元へ面会に足を運んだことだろう。
弁護士に週2回までと言われ、身を裁つ想いで堪えた。
弁護士のいうことを聞くようにあなたが言ったから。
いつもわたし達の間には分厚い硝子板があった。たくさんの傷のついた硝子は透明度が落ち、それだけでわたしの寂寥を掻き立てた。受話器越しにしか聞けないあなたの声。こんなに近くにいるのに、こんなに遠い。
囚人服ですらあなたを彩るエッセンスにしかなりえないことがせめてもの救いだった。
何度目かの春になり、やっとあなたの仮釈放が決まった。
雪が解け大地が潤うようにわたしの心と身体は潤いを取り戻し始めた。
あぁ、あなたが帰ってくる!
メイド達に家の隅々まで掃除させ、あなたのベッドに真新しいシーツを掛けさせた。
もちろん香料も忘れずに。
新しいスーツを仕立てさせ、帰ってくる前日にあなたの元へ届けさせた。胸元にはチーフの代わりにわたしの夜着を入れた。そしてオペラのチケットも。
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