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そろそろ時間だとあなたに告げる。
『そうだね。行こうか。』そう言ってほしかった。それなのに
「先に行っててくれないか。」
女のほうを向いたままあなたはわたしに言ったのだ。
わたしはあなたの上着のポケットからチケットを取り出すとビリビリ破き、あなたのグラスに入れた。
あなたと女が唖然と見つめる視線をすり抜けて、ボックス席に向かう。
早く追いかけてきて!
わたしの願いはそれだけだった。
しかし、第1幕が終わってもあなたは来なかった。
男は女ひとりで満足する生き物でないのは知っている。どうしようもないことだ。それを咎めることなどできるはずない。
それでも願ってしまう。 いつもわたしだけを見てほしいと。それもまた女の性なのだ。
第2幕が始まり、照明が落とされた中、わたしはドレスを脱いだ。靴も下着も脱いだ。アクセサリーをすべて外し、装飾用のカーテンを1枚拝借して身体に巻く。
いまはあなたの金で買ったものなど身に着けたくない。
座席にカーテン代を置き席を立った。
いつの間にかカサブランカは萎れ落ちていた。
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