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私はどうしても麦藁帽子とキャスケットが欲しくなったので、両親と出掛ける機会があれば必ず帽子店、帽子売り場を覗いた。しかし、これはというものはどこにも見つからなかった。
たしかに麦藁帽子はどこの店でも取り扱っていたが、あの映画に出て来たような、鍔広で、灰青色のribbonを巻いたものは置いていない。Ribbonに関しては灰青色でなくとも、臙脂色や若草色、何でもいいとして、どうしても鍔広でなくては――風に舞い上がるほどの、そして、目深にして表情を隠せるほどのものでなくてはならなかった。
またキャスケットを探すのにも骨が折れた。そもそも鳥打帽の一種なのだが、新聞記者でお馴染みのあの帽子は好きになれない。ハンチング帽とは明確に区別すべきものだと考えていた。映画においてキャスケットが変装用の帽子として扱われることが多いことからもわかるとおり、着帽後の印象は大きく違う。ふわふわとしてボリュームがある。そういったものはなかなか見つからない。
帽子蒐集狂でもあり、彼の蒐集品の中には私が理想とするような黒いキャスケットがあった。許可を得て頭に載せてみるとまさにあの映画に出て来た少女のようで、たいへん素晴らしい。ただ私の頭には大きすぎた。
諦めきれずに鏡の前で逡巡していると、彼は帽子屋を紹介しようかと言う。頭に合わせて帽子を作らせる。その意味が私には当初わからなかったが、後日、彼の私室を訪れた一人の帽子屋の話を聞いて、事情が呑み込めた。どうやら私の好みの帽子を仕立ててもらえるらしいと。
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