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その詳細に関して私が想像したことといえば、目の前で死者が出るのを見たとか、自身が生死の境を彷徨った体験があるとか、そんなことだ。
しかしどれも違うような気がした。私は傍らで凝と静謐な死を見つめ続ける彼を見て、いくら怯えてもいずれ無に帰すのが決定されているなら、いっそ夭逝してしまった方がどれほど良いかと考えた。彼が眠るように死ねるために私は短剣を握る決意をした。
「お代わりはいかがですか?」
店主がテラスに現れて言った。空にしたカップは冷え切っている。読書もせず、凝と風景ばかり見ている私に気を利かせてくれたようだった。熱い珈琲を注いで店主は立ち去った。
「どうもありがとう」
脚を組み替え珈琲に口をつける。私は考える。そう彼を殺すことを決意したのだ。刹那の苦痛さえ与えず彼を解放させてあげたい。だがここで私の記憶は甚だ曖昧となる……果たして、私は、彼を殺したか?
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