函の中の万有引力

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     時計が13時を示した。  そろそろ講義の時間。さて最後に私は――私の記憶の深層に沈んでいる或る一場面を呼び起こして、それをこの短い回想の結びとしようと思う。  彼の函、南側壁面にある書棚の梯子段に私は腰掛けて、この微小なる宇宙を俯瞰している。そして突然すべてを解した。未来は朽ち続ける過去であり、過去は現在に帰結する幻想である。この函の中には現在しか存在しない。連続する現在の中で私は私であり、彼は彼で在り続ける。有限の永遠。私は急いで梯子段を下りて、そのことを彼に伝えようとした。そのことが、彼を悩ませる冷たい虚無からの解放を実現させるかもしれないと思ったからだ。  けれども、語彙の貧弱な私は、それを言葉で巧く伝えることができなかった。だから私は彼の膝に上がって強く抱きついた。万有引力。痛いほど世界を感じた。そのことが全てだと思った――  カップの底に溶け残った角砂糖。私は静かに席を立つ。甘美なる記憶の綴織。先月廿歳の誕生日を迎えたが、私の時間はずっと停まったままだ。そう、あのときから、ずっと。        Fin.  
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