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南側の壁は床から天井まで一面が書棚になっていた。上方の棚には長身の彼ですらその指先が届かないため、梯子段が掛けられている。よく私はその梯子段に上って彼の私室を俯瞰したものだ。彼は喫煙の習慣を持っており、部屋の天井付近にはいつも微かな残り香が漂っていたのを記憶している。その涼やかな香りは、未だに鮮やかに思い出すことができるほど。
私の前で煙草を喫むことは一度もなかったけれど、書斎机の上に置いてある灰皿に吸いさしが一本、青い烟を立ち昇らせているのを折節、見た。梯子段から俯瞰する五角形のその部屋は、微小な宝石類がきらめく小函のようで、たいへん宇宙的であった。地上145cmの視点から解放された私の視界。その中では彼自身もまた、この部屋のオブジェのひとつとして収まる――だが、梯子段に上ると彼は煩そうに私を見るので、あまり長々とそうしているわけにもいかなかったが。
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