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無造作に扱われたのか絡まった髪がまず覗く。
人間。
死体だ、と云う事は予測できていた。
白の言葉を詰まらせたのは、その遺体が誰か、と云う事だった。
見覚えのある顔。懐かしい匂いが、腐り落ちる時間に侵食されて生者には酷なものへと変質しつつあった。
「っ父様…!…母様……!!」
白は冷たい床に膝をつく。地面にうっすらと広がる下水を吸ってズボンが濡れるのが分かったが、構わず体を折り、両親の入った麻袋にすがりついて泣きじゃくった。
自分がこんな姿で無ければ。
温かい清潔な部屋で「おかえり」と迎えてくれる筈だった二人。優しい声、愛のあふれる笑顔。僕の帰るべき場所。
「うあぁ、あああ……!」
泣き声が小屋の壁に反響して、自分のものではないように耳に届く。
胃がキュッと縮んで酸っぱいものが込み上げてくるような不快な匂いに、半刻ほど前に食べ消化され始めていたオムライスを床へ吐き戻した。
鼻にツンとしたものが入って、益々気持ち悪さを誘発する。
「うえっ、かはっ…」
二度目を吐いて、三度目の吐瀉感の波に襲われた時は胃の中に何も残っていなく、吐き出すのは空気だけとなっていた。
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