2666人が本棚に入れています
本棚に追加
「ところで、お兄さんは何故この病院に? 見た所、病院のお世話になるような怪我や病を患っているようではありませんが」
「人のプライベートな部分に遠慮がないな」
「知る権利を行使します」
「拒否権を行使する」
「ならば仕方ありませんね。スズはロビーに響き渡る程の大声で『キャー、助けて』と叫ぶことにしましょう」
「……連れがここに入院してる。今日はそのお見舞いだ」
「彼女さんですか?」
「違う。ダチだ」
「へぇ、お友達想いなんですね」
"態度や性格に似合わず"――と余計な一言を付け足し、笑みを浮かべる幼女。
うるせぇ、余計なお世話だ。
「このベンチで休憩してたということは、お見舞いはもう終わったのですか?」
「いや。来てみたのは良いが、丁度リハビリ中だったらしくてな。それが終わるまで、時間を潰してただけだ」
「成程。つまり、スズの見解は正しかったということですね」
「見解?」
「お兄さんが暇を持て余しているように見えたんですよ。だから、こうして話かけてみたのですが」
「…………」
しまった。
ついつい喋り過ぎた。
これは完全に墓穴だ。
自分の浅はかな失態と、幼女の仕掛けた巧妙な罠に今頃気付き、頬を一筋の汗が伝う。
「すまん、何でもない。俺は忙しい。死ぬほど急いでる。見ず知らずの幼女と話している時間はないんだ。それじゃあな」
「今更遅いですよ。お兄さんは今、自ら宣言したのです。"自分には今時間の余裕があり、尚且つ暇を持て余している"のだと」
ニタァリ。
目の前の幼女の顔が、外見と不相応に悍ましく歪む。
勝ち誇ったかのように、計算通りだと言わんばかりに、口角が上がる。
「いやぁ、奇遇ですねぇ。実はスズも退屈してるんです。暇者同士、そのお友達さんのリハビリが終わるまで、お話相手になって下さいよ」
「…………」
まさに一生の不覚。
どうやら俺は、巧いこと誘導されてしまったらしい。
この幼女――悪魔だ。
最初のコメントを投稿しよう!