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「――で。何の話でしたっけ?」
「ふむ。この俺様に足りないものは一体何か――という話だ」
と改めて口にすると、谷村は軽く肩を竦め、紫煙と共に嘆息を漏らした。
「普通の人間相手なら、馬鹿じゃねーの今すぐ死ねよと一蹴する質問なんスけどねぇ。坊ちゃんの場合、マジでそれなりの実力があるから困るんっスよ」
「む? なんだなんだ、今日は妙に素直だな谷村。いいだろう、もっと俺様を褒め讃えることを許可してやる」
「図に乗るなよガキが」
床に唾を吐き捨てやがったぞ、このメイド。
「てか、いつまでもそんな勿体ぶった聞き方してねーでさっさと教えて下さいよ。……言っておくスけど、あたし答えるつもりとか毛頭ないんで、話を進めたかったら坊ちゃんが自分で答えを言って下さいス」
「む、そうだな。貴様にそういうことを期待していたのは、俺様のミスかもしれん」
使用人の非礼を寛大な心で許し、自分の非をすぐに認める姿勢。
これもまた、俺様が完璧人間である所以だ。
「ならば俺様自ら宣言してやろう。俺様に足りないもの――それは、スバリ」
「ズバリ?」
「金持ちキャラの定番、"奴隷"だ!」
「死ねよ」
実に興味なさげな谷村のことは無視して、俺は高らかに叫んだ。
――と同時に、おかしいな。
遂にメイドにあるまじき発言が聞こえたぞ。
「おい、谷村」
「気のせいスよ」
そうか、気のせいか。
「なら、話を続けよう」
「ぶっちゃけ興味ないスけどね」
「まぁ、そう言うな。既に周知の事実だが、我が神宮寺家は世界有数の資産家だ。つまり、その御曹司たる俺様も当然金持ちということになる」
「そっスねー」
「そして、昔から御曹司金持ちキャラというものは、金に物を言わせて"奴隷"の一体や二体を所持しているのが相場と決まっているのだ。何せ、金で買えないものはないからな。しかし現実はどうだ? 俺様はそのような奴隷は未だ有していない。これはまさに、キャラに忠実になりきれていないということであり、完璧な俺様の唯一の欠陥とも言えるわけだ。無論、俺様としてはそんな現状に甘んじているわけにはいかないわけでだな――」
「長い。三行で」
「というわけで
奴隷を
買ってみた」
「馬鹿じゃねーの、今すぐ死ねよ」
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