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先程口では『承知しています』と言っていたにも関わらず、実際に命令されればこの有様か。
己の立場を理解しない馬鹿は好かん。そして口先だけの生意気な奴も虫唾が走る。
「いいか決して忘れるな」
奴隷は何か言いたげにしていたが、そんなことは許さん。
俺様が言いたいことだけをきっちり言わせて貰おう。今後のこの生意気な奴隷の調教のためにもだ。
「俺様は貴様の生存権を含めた全ての権利を握っているのだ。……理解したのなら精々俺様の機嫌を損なわないように気をつけろ。二度は言わんぞ」
その時の奴隷の表情は、実に忘れがたいものだった。
目から光は消え、表情からは生気が抜ける。まさに"絶望"に呑み込まれた瞬間といったところか。
しばらく呆然自失としていた奴隷だったが、やがて目から涙を溢れさせながら震える口を開いた。
「……はい。申し訳……ありませんでした……ご主人様」
今すぐ消え入りそうな声であったが、確かに奴はそう言った。
くくく。流石は俺様人心掌握の術も一流だな。我ながら惚れ惚れするぞ。
これでこいつは身も心も本当の意味で我が奴隷になったと言えるだろう。
「ふん、分かれば良い。さぁだったら早く命令を遂行しろ」
「…………はい」
奴隷は今度は正直に頷いた。
そしておそらく自らの権利を冒涜されたことに対する屈辱の涙を浮かべながら、震える手で身に纏っている布キレを脱ごうとして―――
…………。
――って、いやいやいやいや。
「おいおいおいおい。待て待て、何をしているのだ貴様は」
予想外の出来事に俺様としたことが面を喰らってしまった。
慌ててストップに入る。
「……? ご、ご主人様の御命令通り服を脱ごうと……」
「いやそれは分かるが何故こんなところで脱ぐのだ愚か者。貴様はアレか。痴女というやつか」
「え」
「普通服を脱ぐといったら脱衣所か更衣室で脱ぐに決まっているだろうが。何だこの奴隷は。そんな常識も知らんのか」
「え、え、」
状況がまだ理解できていないのか、奴隷はおろおろとするのみ。
ええい、まどろっこしい。
これだから馬鹿を相手にするのは嫌なのだ。
「おい谷村。来い」
仕方なく部屋の壁に背を預けていたメイドを呼び寄せる。
「……まぁ、こんなことだろうと思ったスけどね」
対するメイドは何やら呆れたように肩を竦めているではないか。
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