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そっと、音を立てないように戸を閉め、私は部屋を出た。
もう春だというのに、夜はまだ肌寒い。
単衣の上から肌をさすりながら、自室へと向かう中で、先ほどの話をゆっくりと思い返してみる。
―清水冠者義高様。
親に決められた私のお婿様。
遠い木曾から親元を離れ来られる人。
・・・そして、お父様は否定したけど『人質』として鎌倉にやって来られる。―
『人質』だからといって、彼が不憫だとか可哀想だとかは思わない。
ううん、思ってはいけないのだわ。
きっと、彼は自分の意志で覚悟を決めて此方に来るのだから。
だから、そう思うことは彼を侮辱することになる。
だけど・・・。
ピタッと自室へと向かう足の歩みを止めて、空を見上げる。
空には、ぼんやりと虚ろに輝く月と今にも消え入りそうな星が瞬いていた。
まるで、私の心の不安をうつしだしたような夜の空だと思う。
・・・これからの事を思うと、今の私は不安でいっぱいなの。
希望なんて、本当にあの星のように今にも闇に呑まれてしまいそうなぐらい、ちっぽけなんだもの。
私の不安は・・・この婚約話の事。
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