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冬。雪もまだ降り続ける2月。
デパートに出かけて、その賑わいを目の当たりにした。
女の人がいっぱい。
バレンタインチョコのフェアをやっていて、私ももちろん、そこに用事がある。自分にあげたいチョコと、職場に持っていくチョコ。
上司には絶対に渡すし、同期や後輩には適当に大量のお菓子を買って袋詰めにしておけばいいだろう。
2階建ての小さなインテリア事務所の事務をしているから、アットホームで、肩肘を張らなくていいから楽だ。とは言え、男の人が多い職場なので、何もしないのはどうかと思う。
チョコは有名どころと、マイナーなメーカーもあって、私の心は弾んだ。だってほら、ピエールエルメがあるじゃない。
私はどのチョコも食い入るように見ながら品定めをしていった。
本命なんてのはないから、小さくて手ごろな値段を選べばいい。
そうおもって、私はふと立ち止まる。
可愛らしいパッケージ。
イングリッシュスタイルな箱に、ボンボンが並んでいた。
お酒の入ったチョコレート…
私はふと、上司の一人である、佐伯さんの顔を思い浮かべた。
そういえば、お酒好きって言ってたな。
しかも、可愛らしいウサギが樽を転がしている絵なんかが入ってて、かわいい分類に入りそうな佐伯さんにぴったりだと思った。
というか、私が気に入った。
値段は…うん、予算は少しオーバーだけど、これくらいなら許容範囲かな。
そんなことをずっと考えていたら、店員さんに声をかけられてしまって、
「お酒好きな方ですか?」
「え、ええ。でも、自分が気に入っちゃって」
「自分にあげるんだっておっしゃって買っていかれるお客様も多いですよ。ウサギが女性受けを狙っているので」
たしかにこのウサギかわいい。ピーターラビットに近い感じの絵の描き方。
女性受けを狙ってるのに、それが佐伯さんに似合うとか、失礼かしら。
そうは思いつつも、他のどれよりもこれが私の目を引く。
「これ、ください」
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