269人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
私はみんなにチョコを配る。もちろん、佐伯さんにもだ。
私は、ウサギのチョコレートを鞄の奥底にしまっていた。
あれ、義理チョコなのに、なぜか、渡せない…。
ここの所長にも同じ袋に入れた同じチョコレートになってしまって、よく考えたら、佐伯さんにだけちょっとリッチなチョコレート。
だから、本命なんじゃないかって疑われそうで怖かったから、みんなと同じチョコレートを渡してしまった。
とはいえせっかく買ったのだから、このウサギのチョコレートはちゃんと渡すつもりだ。
ただ、二人っきりになるときはもちろんあるのだけど、仕事中だし、時間を取らせるわけにはいかなくて。
時間だけが過ぎていく…。
「矢川さん、」
いきなり呼ばれて、私はびっくりしてそちらを見てから返事をした。
「はい」
「ごめん、驚かせたね。今からちょっと外回りに行ってくるので、金森君が戻ってきたらこれ渡しといて」
「わかりました」
私はそれを受け取る。受け取るだけなのに、私の心臓は以上に早く鼓動を打っている気がする。
佐伯さんの、目が私をとらえていて、私は思わず資料に目を落とした。
外回りってことは、今日はもうこれで会えないのかな。
「あ、チョコレートありがとう」
「い、いえ」
彼の中では、もはや完結したであろう、チョコレートのやりとり。けれど、私の中ではまだ完結していない。
.
最初のコメントを投稿しよう!