本物

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「もう少し本物に近づくんだよ。本物のカップルみたいにさ」 「どうやって?」 「それは俺が考えるから心結は心配しなくていいよ。心結は俺の言った通りにしてくれればいいから」 そう言う拓哉の目が、妖しく笑っていた。 本物のカップルかぁ~、小説のためだもん頑張るしかないよね! 連載を始めた以上、手を抜くなんてできないもん。 単純な心結はいつも上手く拓哉の話術にのせられていた。 そして、どんな時でも前向きな姿勢も変わることはなかった。 けどそんな心結でも、拓哉の笑顔に企み事が潜んでいることに気づかない訳ではなかった。 それでも心結は、小説のため!と、覚悟を決めていた。 *  *  * その日の帰り道。 心結はもちろん拓哉と一緒に歩いていた。 校庭には他の生徒がいるにもかかわらず、堂々とした拓哉の態度に心結はいつも感心していた。 きっと拓哉君の好きな人はウチの学校の生徒じゃないんだわ。 だからこんなに堂々としていられるんだよね。 それに比べて私は全然ダメ。 いつか大崎先輩に会ってしまうんじゃないかって、いつもビクビクしてる。 そんな気持ちの表れからか、心結は校内ではいつも拓哉と少し距離を保ちながら歩いていた。
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