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心結と拓哉は、暗い映画館のシートに座っていた。
心結たちが選んだのは、今流行の恋愛映画だった。
「心結の小説の参考になるかも。この映画にしたらどう?」
拓哉のそんな一言で決めた映画だったが、心結はすぐに後悔することに。
映画が始まった途端、かなり濃厚なラブシーンがスクリーンいっぱいに映し出され──
「・・・・・・」
無言のまま、心結はスクリーンのある前方だけを見つめていた。
下を向いたら変に意識してると思われるかもしれない。
もちろん、隣の拓哉を見ることはそれ以上に怖くてできない心結。
なのに拓哉は──
「心結、なぁ心結!」
しきりに心結の耳元で、何度も名前を囁いてきた。
もうっ、いい加減にしてよ!
「なに?」
返事をするものの、心結の顔は前を向いたまま、拓哉を見ることはなかった。
そんな心結を弄ぶように、ラブシーンの度に、心結の名前を妖しく囁き続ける拓哉。
結局心結は最後まで映画に集中することができなかった。
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