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「ねえ、拓哉君はキスしたことあるんでしょ?キスだけじゃないんだよね、それ以上のことも・・・あるんだよね」
拓哉を見つめる心結の瞳が、左右小刻みに揺れていた。
二人の間を流れる空気が、一瞬張り詰めたように感じられた。
どうした心結?
異常なほどにキスにこだわる心結を、首をかしげながら見つめる拓哉。
トクトクと鼓動が走り出す。
「心結、急にどうしたんだ?京一郎の言ったことなら気にすることないぞ」
心結を安心させるために言った言葉だった。
けど、本当は拓哉自身が安心したかっただけなのかもしれない。
「へへっ、なーーんてねっ!当たり前だよねそんなの。なんか変だね私。やっぱあの映画のせいかな?」
心結が目の前で、おどけたように笑った。
けど、それが本心でないことくらい、拓哉には十分わかっていた。
心結は一体俺にどうしてほしいんだ?
・・・・・・まさか。
拓哉は唾をゴクリと飲み込み、思わず絶句していた。
自分の妄想は、必ずしも確信にあたるとは限らない。
けど、どうしても拓哉の妄想がそこにたどり着いてしまう──
──拓哉にキスしてほしい
そう心結が言っているようで、拓哉は言い返す言葉が見つからない。
二人の間を、沈黙だけがゆっくりと流れていた。
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