試練 *

15/16
前へ
/381ページ
次へ
「ねえ、拓哉君はキスしたことあるんでしょ?キスだけじゃないんだよね、それ以上のことも・・・あるんだよね」 拓哉を見つめる心結の瞳が、左右小刻みに揺れていた。 二人の間を流れる空気が、一瞬張り詰めたように感じられた。 どうした心結? 異常なほどにキスにこだわる心結を、首をかしげながら見つめる拓哉。 トクトクと鼓動が走り出す。 「心結、急にどうしたんだ?京一郎の言ったことなら気にすることないぞ」 心結を安心させるために言った言葉だった。 けど、本当は拓哉自身が安心したかっただけなのかもしれない。 「へへっ、なーーんてねっ!当たり前だよねそんなの。なんか変だね私。やっぱあの映画のせいかな?」 心結が目の前で、おどけたように笑った。 けど、それが本心でないことくらい、拓哉には十分わかっていた。 心結は一体俺にどうしてほしいんだ? ・・・・・・まさか。 拓哉は唾をゴクリと飲み込み、思わず絶句していた。 自分の妄想は、必ずしも確信にあたるとは限らない。 けど、どうしても拓哉の妄想がそこにたどり着いてしまう── ──拓哉にキスしてほしい そう心結が言っているようで、拓哉は言い返す言葉が見つからない。 二人の間を、沈黙だけがゆっくりと流れていた。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2936人が本棚に入れています
本棚に追加