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「ねえ、拓哉君のお父さんは何時くらいに帰って来るの?」
玉ねぎを切りながら、不意に心結が尋ねた。
「さあね、遅いんじゃねぇーの」
「そ、そう。じゃあ、拓哉君のお兄さんは何時に帰って来るの?」
「はぁ~~?兄貴?兄貴は帰って来ないだろ?あいつは大学生で、2年前から家を出て一人暮らししてる」
明らかに動揺をみせる心結の返事に、拓哉は語気を強めながら言った。
「うそっーー!!!」
心結の驚く声がキッチンに響き渡った。
「嘘なんか言ってどうする」
あくまで冷静な拓哉の鋭い視線が、包丁を持つ心結の手の震えを素早く捉えた。
ははぁ~~ん、心結の奴、親父と兄貴がいると思って安心してたな。
だから俺の誘いもホイホイついて来たって訳か。
けど残念だったな。
親父も兄貴もここにはいない。
当分の間、俺と心結の二人だけだ。
心結の思惑が外れたことで、拓哉の悪戯心に再び火が付いた。
顔をニヤつかせながら、心結の背中を妖しく見つめる拓哉が、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
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