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それなら───
「あ、ありがとう。実はそのことで草壁君にお願いがあるの。私が小説書いてるってことは誰にも話してないの。だからその・・・」
心結は拓哉の前で急にモジモジと恥ずかしそうに口ごもり始めた。
すると心結の気持ちを察したように、拓哉がスッと立ち上がった。
そして拓哉は心結に背を向けると、屋上の柵に寄りかかり下を見下ろした。
拓哉の視線の先には、登校時間になったのか、生徒たちが校門をくぐり校舎に向かう姿があった。
「おっと、もう時間がないみたいだな。じゃあ用件だけ言うよ。俺は山野のケータイを拾った。山野にとってケータイは命の次に大事なんだろ?ってことは俺は、おまえの命の恩人ってことになる。そうだよな?」
「う、うん」
心結は拓哉の背中を見つめながら答えた。
「おまけに俺は、おまえの小説の大切な読者でもある」
「う、うん」
「けど、その小説にはあるものが足りない」
「えっ!足りないものって?」
すると、それまで背を向けていた拓哉が突然振り返り、意味ありげに口元をニヤリと曲げた。
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