偽彼

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「山野来てる?」 誰かが心結の名前を呼んだ。 心結は声のする方にゆっくりと顔を上げると、驚きのあまりイスから転げ落ちそうになった。 げっ、なんでこんな時に来るのよ! タイミング悪すぎだってば! 心結を探しに来たのは、噂の人、草壁拓哉だった。 教室の入り口に立っている拓哉の姿を見た心結は、咄嗟に依理子たちに隠れようとした。 が、クラスの男子たちは、そんな心結を隠してはくれなかった。 「おい山野!ダンナが呼びに来てるぞ」 「いいねぇ~。青春だねぇ~」 口々に心結をからかい、はやし立てた。 恥ずかしさのあまり、下を向く心結。 もちろん依理子たちも男子同様、心結を隠そうとはしなかった。 「噂をすればご本人登場だよ!」 「ほら、騒ぎが大きくならないうちに行きな」 「続きはまた後で聞かせてちょうだいね~」 依理子たちに背中を押され、心結はフラフラしながら拓哉の元へと向かった。 「ここじゃマズいな。場所を変えよう」 拓哉はそんな心結の手をいきなり掴むと、教室から逃げるように走り出した。
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