偽彼

8/26
前へ
/381ページ
次へ
廊下を走る心結たちの後ろから、 「ヒューーー」 「暑い暑い!」 と、冷やかす男子たちの声が聞こえた。 心結はそんな言葉が自分に向けられていると思うと、恥ずかしくて堪らなかった。 もう嫌だよ~~~。 こんなんじゃ、ますます誤解を解きにくくなっちゃうよ~~。 けど拓哉の手を振りほどくこともできず、ひたすら下を向いて走り続けるしかなかった。 仮にもし心結が拓哉の手を振り払ったら、拓哉は間違いなく心結をお仕置きと称しハグするだろう。 それだけはどうしても避けたい。 心結は心の中で何度も叫んでいた。 けれどそんな声が拓哉に届くはずはなく、虚しさだけを感じていた。 不安のまま廊下を走り、階段を駆け上がる心結。 心結の手はずっと拓哉と繋がったままだった。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2935人が本棚に入れています
本棚に追加