偽彼

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「ひょっとして山野、好きな人がいるのか?」 思いがけない突然の拓哉の言葉に、心結の心は大きく跳ね上がった。 どうしよう・・・。 俯く心結の顔は耳まで真っ赤だ。 たとえ心結が答えなくても、答えは明白だった。 でもそんなことに心結が気づく筈もなく、心結は懸命に考えていた。 草壁君にちゃんと話したら分かってくれるかもしれない。 そしたら付き合わなくて済むよね。 心結は覚悟を決めると、拓哉に顔を向けた。 そして震えながら、「うん」と小さく頷いた。 「・・・・そうか・・・」 心結を見つめ返す拓哉の瞳が左右に揺れた。 一瞬拓哉の顔が、がっかりしたように見えた。 けど、すぐにプイッと顔を逸らしたので確信はできない。 「そいつとは付き合ってるのか?」 拓哉が空を見上げながら言った。 「ううん、別にそうじゃないけど・・・」 心結は膝を抱えながら、屋上のコンクリートを見つめていた。 「そっか。だったら俺も同じだ。俺にも好きな人はいる。俺もまだ付き合ってはいないけどな」 拓哉はそう言うと、空に向かって力なく笑った。 「だったら草壁君だって困るじゃない!私とのこと誤解されちゃうよ」 心結は慌てて拓哉に詰め寄った。
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