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再び動き出す馬車の上で
御者はさりげなく周囲に目を走らせる
『どうしたんだい。怪しい影でも見えたのかね?』
用心棒が声を掛ける
『いゃあ、あっしのような丸腰のへっぴり腰は不安でねぇ。ついつい周りが気になってしまうんでさぁ』
微かな沈黙の後
『そうか』
とだけ用心棒は言葉を返した
更に一つ二つと煙草の灰が落ちる頃
『なぁ、あんたこの仕事は長いのかい?』
横を歩く用心棒が再び声を掛けて来た
歳は20代半ば
使い古された厚手の衣
その胸元からは黒く艶消しされた鎖かたびらが
腕と脚には同じく艶消しを塗られた金属甲が覗いている
暗闇で様々な反射光が敵に居場所を教えない為の工夫
手にはやや短めの棒
背中にはひとふりの刀を背負い、腰には小さなポーチを付けている
武張った所は全く無く、一見すると散歩でもしているような足どりだが…
『へぇ用心棒の旦那。この仕事はガキの頃から親父に仕込まれましてもう40年以上やってます』
『そうか、人々を望む場所へと行く手助けをする事は、善い仕事だと俺は思う』
何気無いその言葉の中に何故かひやりとしたものを御者は感じた
誤魔化すように言葉を返す
『用心棒だって善い仕事でしょう。雇い主の身の安全を守る。特にこんな世の中なら儲かる商売だ。それに世の中に人の役に立たない仕事なんかありませんやね』
ほんの僅かな沈黙
『ふむ、なかなか穿った事を言う。では俺の飯の種である盗賊と言う仕事についてあんたはどう思う?』
嫌な予感を御者の勘が告げている
いや有り得ん
こいつが知っている筈がない
認めたくない不安を押し退けようと言葉が乱暴になっていた
『あんなのは仕事とは呼ばないんだよ!ああゆうのは犯罪者って言うんだ!』
再び僅かな沈黙
用心棒の自然な歩みにも、その沈着さにも、微かな変化も伺えない
『ふむ、成る程。だから俺が[この仕事は長いのか?]と聞いた時、あんたはその事に触れなかったんだな。
これは仕事だがこれは仕事ではない、と言う訳だ』
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