エピソ-ド1

6/7
前へ
/19ページ
次へ
『用心棒の旦那…あんた何者なんだね?いつから知っていた?まさか王軍の兵士なのか…?』 静かに歩を進める用心棒は何でもない事のように淡々と答える 『俺はただの用心棒だ。 それ以上でも以下でもないし勿論王軍の兵士でもない。 いつから、と聴かれても困るな。 俺が盗賊ならやはりどの町からも最も離れた地点を狩場に選ぶ。 更にそこには森があった。 先行して様子を見に行けば殺気を孕んだ気配が二つ。 山野で生きるには不適切な服装や、未熟な身のこなしと腕前、そしてたった二人である事からどちらかの町のあぶれ者であると確信した。 襲った者を生きて帰さなければ、誰にも知られる事は無いからな。 こんな世の中だ、誰も不思議には思わない。 さて、この町のあぶれ者はたまたま森の中にいて、たまたま獲物を待っていたらたまたま二人で襲える小さな馬車に遭遇したのだろうか? そんな美味しい獲物はそうそうは通らない筈なのに彼らはそれを期待して四六時中森の中に居たのだろうか? それは考え難い。 勿論偶然の可能性もあるがもしそうでなかった場合、彼らはどうやってそれを知ったのか? たった二人で剣術の心得すら持たない素人の彼らが強奪可能な人員、装備、日程日時を教えられる者がいるとすればそれは誰か? そこまで考えればおのずと選択肢は限られて来る。 そうだろう? まぁ実際には、あぶれ者二人に気を取られたその背後から襲う三人目がいた訳だが。 そうやって完全に不意を突ける前提に立った場合、護衛がいても一人までなら大丈夫だ。 と、あんたは計算したし実際それで成功してたと言う事だな。 おかしいと思ってはいたんだ』 そっと懐に手を忍ばせる御者には目もくれず用心棒は淡々と語る 『こんな世の中だとあんたは言った。 こんな物騒な世の中だと言う事を承知でこんな仕事をしているあんたが自衛の武器を持っている事は至極当然で何の問題も無い筈だ。 武装する味方が多い分には雇い主の安心感も増すだろう。 なのにあんたはそれを持っていないかのように隠し続けていた。 隠すべき理由があんたの心の中にはあったからだ。 先のあぶれ者を手引きした者がいる可能性の件と、あんたが[誰に][何故]武器を持っていないと思わせたかったかの理由。 その二つを満たす条件を探れば、答えはより狭い範囲に限定される。というだけの事だ。 簡単な話だろう?』
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加