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しかし――。
こちらからは姿をとらえることはできませんし、一向に夫が出てくる気配もありません。
「私にはわかっているのですよ?イタズラは終わりにしてください」
もう一度、今度は少し強めに言いました。
すると数秒の沈黙の後、悲しげな声が黒い塊から聞こえてきました。
「ハンナ……違うんだ」
とても弱々しく、今にも消えてしまいそうな、そんな声でした。
……一体何が違うのでしょう?
私は彼の言葉に首をかしげます。
私に理解力が足りないためか、彼の言葉の意味を理解することができません。
「イタズラじゃないんだ」
夫の声が静かに響きます。
声に出さなかったのに、彼は私の心の問いに答えました。
きっと、私はわかりやすい表情をしていたのでしょう。
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