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とても、じっとしてはいられない。
男は床に投げ出してある白いトレンチコートを手に取ると、じとり油で湿った厚い布地を持ち上げ、そっと外に出た。
男の目の前に、星で薄く光る夜空をさえぎって、黒く長方形の巨大な物がそびえ立つ。
男はその黒影をじっと見つめた。
――あそこへ、行かなければ。
その理由は判らない。
ただそう強く感じただけだ。
男は白いトレンチコートを羽織ると、亡霊のように影に向かって歩いた。
・
ケムンが目覚めたのは、いつもの時間より少しばかり遅かった。
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