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さらに遠くにも、山のように巨大なものの影が蠢いていた。
そいつが動くたびに、ケムンの足元の地面が揺れる。
肌にへばり付く程の湿った生暖かい風に乗って漂って来る臭いは、魚が腐った様な、鉄が錆びついた様な、地下深くから湧き出る硫黄の様な、何とも言い難いがとにかく鼻を突く強い臭いだった。
――狭間(はざま)の世界――
言葉が脳裏に鮮明に浮かんだ。
生きたものの世界ではなく、死んだものの世界でもない、その狭間に有る世界。
生きている者からは恐れられ、死んだ者からさえも忌み嫌われる者達の世界。
ここが奴らの故郷なのだ。
奴らはここからやって来たのだ。
そして今、ケムンの目の前に居る物は、生きてもいないし死んでもいない存在。
それがこの生きたものの世界に、今、確実に居るのだ。
――でも……どうやってここに来たんだ?
また答えがあった。
見えない手から。
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