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熊手よりも大きな二本の手が、ケムンを捕まえようと襲って来る。
ケムンは身をかわし、寸でのところで避けたが、バランスを崩してどたどたとしばらく歩き、そして倒れた。
急いで目の前にある物を掴んで起き上がった。
ケムンが掴んでいた物。
それは会議用の長机の脚だった。
今ケムンの前にあるのは、四人のホームレス達の命と引き換えにこの世に、この現世の日本にうまれた狭間のものの卵。
その時、後方からどこんどこんと大きな音が響いてきた。
振りかえれば、狭間のものが太く短くいびつに歪んだ二本の足を使って、ケムンに迫って来る。
元は三メートル近い長身の少女だった手を前に突き出して。
「ひっ!」
ケムンは思わず卵を一つづつ握りしめると、そいつを狭間のものにめがけて投げつけた。
卵は巨大な顔に当たり、二つとも脆くも割れ、中からどろりとした赤と緑の斑な物が流れ出てきた。
顔がその動きを止めた。
「うっ」
その目から、涙、そう涙を流し始めた。
「うっうっうっ」
泣いている。
「うっうっうっうううっ……うおーーっ!」
灰色だった丸い目が、今や燃える様に赤い。
透明な手と繋がっていなくてもよく判る。
激しい怒りがその全身を焦がしていた。
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