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再びぼこぼこに凹んだドラム缶の様な足を不器用に使って、ケムンに迫ってくる。
ケムンは右手でもう一つの卵を掴んだが、左手は無意識のうちに、素早くコートのポケットに突っ込んでいた。
指先に当たる何か硬い物。
それはウオッカの瓶だった。
ケムンは卵をなげた後、アルコール度数八十度のウオッカの瓶を、顔の中心辺りに投げつけた。
それは顔の中央部分にある角――のようなもの――に当たり、瓶が割れて中身が顔面にばらまかれた。
それでもそいつは止まらない。
重心の高い危ういバランスながらも、どたんどたんとケムンに迫って来る。
恐怖がケムンの身体を貫いていた。
もはや正常な思考は望めない。
ケムンは本能のみで動いていた。
動きも、何時ものだらだらとした動きではなく、アスリートのように速かった。
最後の卵を掴むと、もう一方の手をズボンのポケットにねじ込んだ。
そしてオイルライターを引っ張り出すと素早く火を点け、闇のものに投げつけた。
火が点いた。
火が点く事は、投げた瞬間に予想がついた。
しかし、何かが明らかに違う。
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