狭間のもの

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信じられ無い事に、角の周りを焦がすだけと思われていた火は、あっと言う間に巨大な炎と化した。 ケムンは自分の眼を疑った。 たった一本のウオッカが、これ程までの効果をあげるとは。 それはまるで、ガソリンを十分に含んだ襤褸切れか紙でもあるかの様に、あかあかと燃えているのだ。 頭の中では無くケムンの耳に直接、何かが聞こえて来た。 「くそっ、なんて事を、なんて事を……熱い……火には……弱いのに……」 日本語だった。 斜めに走る大きな裂け目が、日本語をしゃべっているのだ。 ぶよぶよした巨大なものが床に倒れ、その上をごろりごろりと回り始めた。 火を消そうとしているのだろう。 しかし炎の勢いは一向に治まらない。 それどころか最初からあった激しさが、更に増していく様にも見える。 人間とも動物とも違う、今まで一度も聞いた事の無い様なかん高い絶叫が、辺り一面に響きわたる。 狭間のものは、両手をぶん回し、床を転がり、悶え苦しんでいる。 不意に片方の手がぼとりと落ちた。 その次には、もう片方の手も。 落ちた二本の手は、燃えながらあっという間に元の全裸の少女の姿へと、戻っていった。 二人ともたちあがり、ふらふらとさ迷っている。
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