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開ける鍵は、何処だか判らない。
思わず力づくで引き開けようとしたが、無論開く訳も無い。
ケムンが咄嗟に辺りを見回すと、お手洗い、という表示板と矢印が目に飛び込んできた。
僅かな希望を胸に、それに向かって走った。
・
トイレに入ると、一番奥に小さな窓が見えた。
月が浮いている。
小さな窓に縁取られた満月は、額縁に入った絵のようだ。
鍵は掛かっていたが、内側からなら簡単に開けられそうだ。
ケムンは鍵を開けると、顔の高さほどの窓によじ登り、狭い空間に無理やり身体を押し込んで、外の草叢に飛び出した。
肩から落ちて、痛みを堪えながらホテルを見ると、窓から見える炎の赤がどんどん大きくなっていくのが見てとれた。
ケムンは慌てて自分のハウスに戻ると、頭から布団を被り、がたがたと震えていた。
・
「おい、ケムン、起きろ!」
カンさんの声だ。ケムンはとぼけた。
「うーん、どうしました? こんな時間に」
「たいへんだ。ホテルが燃えているぞ」
「えっ」
ケムンは外に出た。
一階宴会場から出火したホテルは、その時には三階まで火が燃え移っていた。
カンさんが他人事のように呟いた。
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