狭間のもの

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ケムンの顔を見つけ、たけさんがそう言った。 背中を向けていた四人が振りかえる。 その顔は、毎日の習慣でとりあえず集まって話を聞いている人間の表情とは、少しばかり違っているように思える。 ケムンが座ると、たけさんが再び話を始めた。 「みんなにはもう言っているんだが、スワンの姿が見当たらなくなったんだ」 スワンとは此処では古株に当たる人物で、真夏以外は何時も白い――薄汚れていて純白と言うよりは、斑な灰色と言ったほうが正しい。カンさんはそれを、シマシマと呼んでいる――トレンチコートを着ている男だ。 スワン“白鳥”の名は、そのトレンチコートに由来している。
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