或る末裔の気紛れなピエタ

9/9
前へ
/9ページ
次へ
陶器のような白い肌から、伝わるのは微量の熱。 その見た目に反して、以外にも柔らかい唇に少しだけ戸惑う。 閉じられた不思議な色彩の睫毛は長く、いつまでも眺めていられる程で。 そっと目を細め、心の中でひとつ、嘆息を洩らす。 「(…ああ、)」 なんて、うつくしいいきもの。 口付けの間は目を閉じる。そんな簡単な作法も、頭からすっかり抜け落ちてしまっていた。 やがて、徐々に白磁の肌に赤みが差してきて、そろそろ大丈夫だろうか、と少し名残惜しい気持ちを懐きながら、唇を離した。 ―――筈、だったのだが。 「――――ッ、?」 軽い、衝撃に、目を見開く。 キスを、している。慎太郎は一瞬遅れて状況を認識する。 するりと、人魚のしなやかな両の腕が頸に回された。 そのまま噛み付くように、再び、口付けを落とされる。 呆けたままの慎太郎の唇は軽く開いたままで、そこからの侵略は容易いものだった。 ぬるりとしたものが、唇に触れ、歯をなぞる。 その感覚の、余りの生々しさに、流石に慎太郎も我に帰ったのだが、時既に遅し。 人魚は疾うに、容赦なく彼の口内を蹂躙しに掛かった後である。 「ふッ…ん、んんん―――…?!」 形振り構わずに押し返そうとして、人魚の肩を掴むが、すぐにすがるようなそれに変わる。 いつの間にか、押し倒されるような体勢になっていた事に気付く。畳に押し付けられると、背中が痛かった。 生理的な涙が視界を霞ませ、ぐらぐらと揺れる酸欠の脳内ではマトモに状況を処理出来る訳もない。 まるで、捕食されているようだ。下らない思考が脳裏を一瞬過る。一瞬後にはすぐにそれも霧散した。 身体に力が入らなくなり、本格的に生命の危険を感じ始めた所で、不意に、唐突に解放された。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加