或る末裔の気紛れなピエタ

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「それ」は一枚の絵画の様だった。 ――これは、今、目の前に広がる光景を見て、辰馬慎太郎が真っ先に抱いた感想である。  * * * 春も終わりの4月下旬。 受け入れ先のアパートから漸く部屋の準備が出来ました、という連絡が慎太郎に届いたのはつい一週間前の事だった。 本来、大学が始まる前に引っ越す予定だったのが、原因不明でそれが一月も遅れ、慎太郎は不服な気持ちを懐かざるを得なかった。 そこでもう別の物件に当たってしまっても良かったのだが――、生憎、その街のアパートを逃してしまえば、自分の通う大学付近の物件はどれもこれも条件が合わない訳だったので。 渋々、大学付近に住まう友人の家に下宿させて貰いながら1ヶ月をしのぎ、先日携帯にやっと連絡が来たときは安堵の溜め息を洩らしたのだった。 その後、アパートが下見の時より若干壁が綺麗になっているような―――と、下見以来、初めて部屋に入った慎太郎が首を傾げたのはまた別の話として。 話は現在に戻る。 引っ越してから一週間とは言え、大学生活も忙しく、中々部屋に積まれた段ボールは片付いてはいなかったのだった。 今日は引っ越してから初めての休日だったので、朝の内は真面目に荷物を整頓するか、と意気込んでいたのだが。 外は晴天、絶好の散歩日和である。 ひらひらと舞い散る桜の花びらを眺めていると、何だか部屋の中でひたすらに段ボールと格闘している自分が急に馬鹿馬鹿しくなってきて、気付けば慎太郎はふらふらと散歩に興じていたのだった。
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