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以前、下見に訪れた時には、そんなにゆっくりと見れなかった景色を楽しみながら、慎太郎は歩いていた。
この街の雰囲気は、どうにも不思議だ――、と、慎太郎は思う。
どこの国とも知れぬ容姿の者が普通にそこらの道を闊歩しているし、住人は普通にそれを享受している。
「(…それに、)」
時折、自分と《同じ》ような気配も感じるのだ。
おかっぱの黒髪を揺らして、幼女が横を通り過ぎる。
その行方を追って、ふと振り返れば、曲り道も無いというのに、既に幼女の姿は無い。
慎太郎の中の何となく、の予感が確信に変わる。やはり、この街は少しばかり自分のような者が多いのだ、と。
* * *
慎太郎の身体には、龍神の血が流れている。
慎太郎は、それを幼い時分から家族に知らされていたし、別に龍神の血が流れているから今までの生活がどう、という事も無かった。
ただ、一族の他の者に比べると力が―――神力とでも呼ぶのだろうか、その素質が強いらしいのだ。
その事で別段、悩んだ事は無い。この力は精々他者の傷を治癒するのがやっと、くらいのものなので、他人を傷付ける心配も無いのだ。
しかし、いつしか自分は他の人とは違うのだ、と家族とすら線引きをして人と付き合う癖が出来たのは、ひょっとしたらそんな自分の生い立ちにも一因があるのかも知れない――、と思うことはあったが。
* * *
ぼんやりと少女の消えた方向を見るともなしに眺めながら、慎太郎は改めて、この不思議な街を少し好きになれるような、そんな予感を懐いていた。
やがて、慎太郎は気の向くままに爪先を道の向こうに向けて、散歩を再開させる。
久し振りに、これは面白い事が起きるかもしれない―――と、晩春の雰囲気に心を躍らせながら。
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