或る末裔の気紛れなピエタ

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慎太郎は、しばしその場に立ち尽くし、呆然とその春の川に広がる光景に魅せられていた。 色素の薄い白い体躯が、両腕を無造作に水面に投げ出し、散った桜の花弁がそれを鮮やかに彩る。 空のあおに近いような、水に融ける不思議な髪の色に、その閉じられた瞼の下の瞳はどのような色をしているのか、と。 思わず、抉じ開けて見てやりたい、という欲が掻き立てられてしまう。何て本能的で下世話な欲求なのだろう――、と頭の片隅で、ぼんやりと想った。 淡く、消えてしまいそうな色彩の中、その身体から流れ出す赤色のそれも、さながら差し色のようで―― 「…血?」 非日常の中に違和感を落とす、現実的で生々しい色彩に、途端に刹那の夢から醒めた慎太郎は、ズボンを捲るのも忘れたままに、少し温み始めたとは言え冷たい春の川に、一瞬遅れて足を踏み入れたのだった。  * * * 「…はぁ」 あれから。 慎太郎は数時間ぶりに、段ボールに埋もれた部屋に戻ってきていた。相変わらず、段ボールは減っていない。当たり前だが。 未だ目覚めない目の前の人魚を眺めながら、思い返されるのは先程までの自分の行動―――、
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