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頭を抱えてある程度後悔すると、やがて慎太郎は顔を上げた。
その時にはもう、くよくよしようが仕方ない、恰好悪かろうが俺はこいつを救うのだ、とすっかり自分の中で割り切っていたのだった。
そう。この男、辰馬慎太郎は切り替えの早い男なのである。
不意に、思い立って人魚の頬にそっと触れてみた。――見た目は陶器のように白いのだが、確かにそれはほんのりとしたあたたかみを持っている。
それに、運び込んだ時よりは呼吸も幾分か安定している事を確かめると、慎太郎は安堵から笑みを零した。
掌を触れた時と同様に静かに離し、すっかり冷えてしまった蒸しタオルを片手に持つと、慎太郎は台所へいそいそと向かったのだった。
* * *
「…っと、」
いけね、と呟いて、慎太郎は崩れかけた体勢を直した。
どうやら船を漕ぎかけていたらしい。
時計を確認すると、時刻は午前四時半過ぎ。この人魚を拾ってきてからマトモに寝ていない気がする。
あれから、二日が過ぎた。
人魚は未だ目を覚ましてはいない。
それどころか、日に日に衰弱しているようだった。
それもそうだ、重症の体だというのにずっと飲まず食わずでいれば、ヒトでは無かろうとじきに死に至るのは当然であり。
最早一刻も早く何らかの処置を施さなければ、この目の前の人魚は――
「(…手段を選んでいる暇は無い、か)」
いよいよ最後の手なのだが、出し惜しみしている場合では無いだろう。
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