或る末裔の気紛れなピエタ

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―――自らの身体に流れる神力を、人魚に分け与える。 慎太郎は確かに優れた神力を持った末裔なのだが、そういった方法に関する知識は無いに等しい。 せいぜい、幼い頃に今は無き祖父や、遠い親戚に子守唄代わりに話をして貰ったのをおぼろげに憶えているくらいだ。 なのでここからは全くの推測に過ぎないのだが、恐らく、龍神も人魚も水から生まれ出たモノだろうから、力を分け与えるのは不可能では無い筈だった。 人魚を抱き起こしながら、幼い頃に聞いた、祖父の言葉を思い出す。 “―――使う機会は無いかもしれないが、慎太郎、少しだけ、その力の使い方を覚えておきなさい” “慎太郎、『白雪姫』は知っているかい?” “そう、白雪姫は王子様のキスで目を覚ますんだ” “あれは王子様が白雪姫に自分の生命力を『分け与えた』訳なのだけれど、それと一緒なのさ” “つまり、お互いの体液交換をする事によって、自分の力を相手に分け与える事が出来るんだよ” “普通の人には出来ないが、慎太郎にはそれが出来る” “…まだ少し、難しかったか。うん、もう寝なさい” “慎太郎が―――何時か、もし大切な人が出来た時に、その人を救う為にその力が使えると良いね…” 蚊帳の中、静かな夜に虫の鳴き声と、自分の頭を撫でる祖父の大きな手。 じいさん、教えといてくれてありがとう、なんて心の中で呟いてから、慎太郎は人魚に口づけた。
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