ウサギのマーク

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ウサギのマーク

兄は競輪場へ行ってみた。 たくさんの人間がそこにはいた。 この中の誰が学と会ったとしても、探し出すのは不可能だ。 だれ一人、学のことは覚えているはずもない、それでも、兄は出店の屋台や警備員へ声をかけた。 「この写真の男を見ませんでしたか」と、訊いて歩いた。 「見ていませんね」学を見たという者は現れなかった。 競輪場から駅に続く商店街を一軒ずつ隈(くま)無く訊いて歩いた。 「見ませんね」 「見ていませんね」 「覚えていませんね」学を見たという者は、現れなかった。 兄の孝史は、今度は学の住んでいる、周辺の聞き込みを始めることにした。 学が部屋へ帰ってきたのが、七時頃だと言っていた。
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