ウサギのマーク

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その時間に会わせるために、兄孝史は公園のベンチに腰をおろし、学のことを思い浮かべた。 今ごろは取調室で刑事に怒鳴られているのではないか、その姿が目に浮かんできた。 一刻も早く劣悪な取り調べの環境から、学を救い出してやらなくてはと孝史は思った。 公園のベンチで時を過ごし、事件の起きた七時になった時。 孝史は道行く一人一人に、学の事を聞いてみた、そして、事件のあったあの夜。 「電気の工事をする車が、あそこへ、止まっていました」と、買い物帰りの主婦は言った。 「どんな形でしたか」 「ライトバンです、それで、屋根にハシゴを積んでいました」買い物かごを持ち替えた。かごから出たネギが、主婦の体に当たり揺らいだ。 「何色の車ですか」 「白っぽかったかな」と、あいまいな記憶を辿って言った。 「名前が書いてありませんでしたか」白い車だけでは捜しようがなく、何かの手がかりがほしかった、孝史は願うように訊いた。
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