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文久三年 三月  何処からか桜の薫り漂う道を斎藤一は一人、今後の身の振りかたを考えながら歩いている。 一が江戸を離れ京に来てから、早いもので一年半近くが経とうとしていた。  今日は江戸に居た頃、何度も剣術の出稽古で訪れていた試衛館の道場主近藤勇を訪ねた。  懐かしい顔ぶれに会った所為か、平生の一からしては考えられない程に心が泡立っている。  近藤等試衛館の顔ぶれは二月末に、清河八郎により集められた将軍 徳川家茂の上洛を警護する浪士組に参加し、上京して来ていた。  だが、清川との意見の違いから浪士組を離れ京都守護職を務める会津藩 松平容保に嘆願書を出し、京都守護職配下で壬生浪士組を名乗り、活動を開始しようとしていた。  一には、ある事情から京に逃げてきた自分との違いに愕然としたのだ。  そして、特にこれと言った思想がある訳ではないが、何かを成し遂げようとする近藤等が羨ましくもあった。  まして、京に来て以来、江戸の人間と話した事など無く、江戸の匂いのする近藤等に郷愁を掻き立てられていた。  俺も壬生浪士組に入ろう。  先程近藤に誘われた時には出なかった答えが、すんなりと出た。
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