第一話

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 伝説、と言われる物はいたるところに存在している。  有名所で言えばアーサー王物語や宮本武蔵などだが、何代も語り継がれてきた過程でどちらも脚色が強くなり、物語からでは起こった事実を探り出すことは難しい。  伝説を誰か一人が作り出した到底常人がたどり着けるはずのない、幾台も語り継がれるほどに魅力的な物語とするならば、ヒットラーや織田信長などの暴君が築いた物も伝説と言えるだろう。  しかし、伝説と言われる物語自体はスポーツや格闘技などの中でも多く生まれ、この明らかに差のあるいくつもの伝説が一緒くたにされている。  こんな風に伝説と言う物の定義があやふやだからこそ、いたるところに伝説と言うものが存在し、今も何処かで生まれ続けている。  そして、伝説の始まりと言う物は千差万別で、ある伝説はたった一冊の本がヒットしたところから始まり、またある伝説は真夜中、田舎の高級料亭で一人の少年がヤクザとの大金をかけた麻雀でプロの代打ちに負けたところから始まる。  その他にも、とある私立高校の麻雀部室で始まったり、一人の少年がふと知り合いがあやしい行動に気付いた事から始まる。  そして、今ここでも―― 「くっ」  地方のテレビ局。東京に本社を置き、全国にも支部を持つ大会社の支部の一つだ。  小さなスタジオに一通りのセットが配置されている。と言っても中央に型落ちの全自動卓を置き、卓を囲むように椅子が四つ。全員の手牌が確認できる角度でカメラが四つ置かれているだけだ。  カメラに写る範囲は小ぎれいにされていて、電灯の高さが通常の部屋並みの二メートル当たりの所にぶら下げられている。  卓を囲んでいるのは俺を含めて全員が高校生だ。  全自動卓を挟んだ向かい側。着ている服は学生服と言うよりもスーツに近いデザインで、整った顔の上にサングラスをかけた男がいる。  男は苦しそうな表情をしながら左手を手牌にかけ、ここ三十秒ほど長考している。  一度目線を下。卓側面の打っている人間から見やすいように表示されている点数へ向けて大きくため息をつき、手牌の中から一枚の牌をつまみあげ、投げるように。落とすように牌を曲げた状態で卓上に叩きつけ、手を卓上に突き出したまま、言う。 「リーチだ……!」
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