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冗談、とは思えなかった。
睨むだけで相手を殺せそうな眼を見ていれば笑う気分になることはないし、実際ミカヅキは、感情を持っていないと思える程の無表情だった。
「こら、ミカヅキ。そう脅してやるな。恐怖心で具合が悪くなられたら困る」
ススキが言うが、言われた本人は素知らぬ顔で机にあったカルテを勝手に読み始める。
はあ―――ススキの肩が大きく下がる。
「悪気は無いが、この通り無愛想な奴での。気にせんでくれ」
「………いえ」
本棚の横にある窓から風が吹き、カーテンが波立ち踊る。
微かに潮の香りがした。
「ここは、海が近いのですね」
「ああ。この病院は、崖の上に建っておるからな。下は海になっておるよ」
「崖の上、ですか」
「そうだ」
辺りが静かになれば、確かに波の音がする。
再び風が吹く。
すうと横を通り抜けた。
―――何故だろう。
突然だった。何の前触れもなく、湧き上がるように思いが去来する。
―――何かが、私に足りない。
ドクンドクン―――心臓が高鳴る。頭痛が増し、目の奥が内側からギリギリと痛む。
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